9月9日の演奏朗読会『セロ弾きとセロ弾きのゴーシュ』。
様々な方々のご協力の下、シリーズとしての記念すべき第一回をつつがなく終えることができました。
本番に向けての記事はこちらになります。
奏者という立場から、『セロ弾きのゴーシュ』に登場する楽曲について”選曲”に焦点をあてて書かせていただきました。
この「本番後記」とあわせて読んでいただければ、奏者の本番前・本番後のそれぞれを感じていただけるかと思います。
当日は、大変ありがたいことにたくさんのお客様に聞きに来ていただけ、お店は満員で立ち見が出るほど。
開始時間が夕方早くだったこともあり、ここまでの方に集まっていただけるとは思っておらず、これは予想外で嬉しい驚きでした。
会場に使わせていただいた”J’epoca SakaBar”さまは、内装も素敵でお料理も美味しく、お酒の種類も豊富といういいところ尽くしのお店なのですが、チェロ奏者の私にとってなにより嬉しかったのが、楽器がとてもよく響くことでした。
チェロの音域は人の声に最も近いといわれ、そのことで親しみを持ってくださる方も多い楽器です。
しかし、バイオリンやフルートなどの高音楽器と比べると、弾く場所によっての音の出し方に、調整や工夫がより必要となります。
コンサートホールなどの広い場所では遠くの席にまで音を届かせることが難しかったり、逆に会場は小さくとも、響きの悪い場所ではその影響をもろに受けてしまったりするのです。
写真でもおわかりいただけますように、お店が縦に長かったこと、また床が木でできていたことも影響してか、楽器の深くから音が鳴り、響きが店の端にまで届いていることが弾いている私自身にも伝わってきました。
相棒である楽器の機嫌は、奏者に直接影響を与えます。
気持ちよく歌うチェロに私の気持ちも高揚し、しかし不思議と芯にある自分は冷静になり、朗読をはさみながらの途切れ途切れの演奏でも、その一曲一曲へきちんと集中することができました。
それは同時に、私に新たな課題を気づかせてもくれました。
本番中、曲中の朗読の声が練習よりも明確に聞こえ、お互いの呼吸感、曲の開始や終わりのよりよいタイミングを常時探っていました。
その中で、唐突に、朗読も音楽も同じ”時間芸術”なのだということがひらめいたのです。
それは考えてみれば当たり前のこと。
朗読と音楽は共通点が多く、とてもよく似ています。
「朗読と音楽でひとつの世界をつくる」
それにもっとも重要なのが”時間”なのです。
呼吸、間の取り方、テンポ、タイミング・・・
まだまだ私たちの世界は一つになれるのだとそう思えました。
ありがたいことに、今回ご都合が合わなかった方々からは再演を願う声を、そしてご来場いただいたお客様からも第2回の開催を望んでいただけました。
そして近いうちにそれを実現する目処も立っています。
朗読と音楽でつくるゴーシュの世界は、まだ未完成です。
一つの世界の完成は、一朝一夕でつくれるものではありません。
けれどたしかに、そこへいたるための足がかりをつかめたという感覚に、私はとても晴れやかな気持ちでこの演奏朗読会を終えることができました。
最後に
私にとっての挑戦でもあった、即興演奏による「インドの虎狩」をはじめ、短い抜粋となりますが動画によって会の様子をご紹介させていただきます。
日本にいらっしゃる方や、ドイツでも遠方にいらっしゃる方などに、少しでも雰囲気を味わっていただき、また楽しんでいただけましたら幸いです。
(こちらはご来場いただいたお客様による、携帯での撮影のものです。)
『場面1・活動写真館 練習風景』
『インドの虎狩』
『エンディング・バッハ:無伴奏チェロ組曲第1番プレリュード』
上原ありす (Alice Uehara)
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